鴨川達夫『武田信玄と勝頼−−文書にみる戦国大名の実像』(岩波新書1065、2007年)

信玄や勝頼が出した書状、証文を綿密に分析することによって、これまでの通説を修正する意欲的な研究をわかりやすく解説した本。非常に面白かったし、僕が初期イスラーム時代に関してやりたいことと方法論的にかなり近いものがあるので、参考になる部分も多かった。また、全五章のうち三章までが、文書をいかに扱うかというある種の技術解説を中心としていて、アラビア語の文書を読むときにも留意すべきことがいくつもあった。
それにしても戦国期の文書に現れる「変体漢文」というのはなかなか大変そうである。助詞を文脈で補って考えなくてはいけないのはつらい。まあアラビア語だと文書では子音を識別するための点が省略されていたりするので、また違った難しさがあるのだが。
それから、この本では紹介されていなかったと思うが、日本史界隈では文書の画像付きのデータベースをウェブ上で公開するような動きはどれくらい進んでいるのだろうか。アラビア語パピルスでは現在欧米でそのようなプロジェクトがいくつも組まれているし、ギリシャパピルスではかなりの部分がオンラインで参照できるらしい(本格的に調べていないのでどの程度かは分からないが)。そのうち時間があったら調べてみようかとも思う。