G・タイセン著、大貫隆訳『新約聖書:歴史・文学・宗教』(教文館、2003年、原著は2002年)

そこでわれわれは、史的イエスを再構築するに当たり、二つの基準に従う。
(1)まず、影響の妥当性の規準に照らすと、他の要因によって説明するよりも、史的イエスからの影響として説明する方がうまくゆくものが真正である。この規準に従うと、とりわけ互いに独立のイエス伝承同士の間の一致、また、それらの伝承の中に大方の傾向に逆らって保存された――つまり、原始キリスト教の信仰と生活に矛盾するようなーー遺物こそが歴史的である。
(2)次に、コンテキストの妥当性の規準に照らすと、当時の歴史的コンテキストの中へ独自な現象として組み込むことができるものが真正である。なぜなら、紀元後一世紀前半のガラリヤにおいてみた時に考えられるようなものは、原始キリスト教のファンタジーによる産物というよりも、むしろユダヤ教の歴史の産物だからである。
全体としてこう言うことができる。すなわち、イエスの伝承の中では、なぜユダヤ教に根を持った一人の霊能者(カリスマティカー=イエス)が、その死後とりわけ異邦人の間に伝播するようになるような一つの運動を呼び起こすことができたのか、このことを最も良く説明し得るものが最も歴史的である。
(pp.28-29、原文は段落分けされず一段落中に書かれている)

このような基準による判断を、初期イスラーム時代史の文脈にあてはめたとき、どう消化できるか。一読して思ったよりは大分難しいように思う。