鈴木公雄『銭の考古学』(吉川弘文館、2002年、ISBN:4642055401)

前々から読もうと思っていてまだ読んでいなかったものを読了。以前読んだ、三宅俊彦『中国の埋められた銭貨』と同様のアプローチ(まあこちらが先ですけども)で、主に一括出土銭の分析を通じて、日本の古代から中世、近世に至る貨幣史を再構築しようとしている。江戸時代の銭貨発行政策などを分析していくあたりは非常に面白く読めた。
やはり思うのは出土銭貨を使った研究の方が耐久性があるということ。僕が修論であつかったような年代・発行所ごとに整理して、その発行の流れを追うというような研究は、一枚の新発見のコインで崩れ落ちる可能性をはらんでいるが、出土銭貨から大きな傾向を抽出するという方法を採ると、一つの新発見で覆されることはないだろう。
僕がそういう方法論をとり、日本や中国の貨幣について研究している人たちがああいう方法論をとるというのは、ある意味では史料の制約を受けているものでもある。中東では素性がはっきりしている一括出土貨のデータというのはそれほど多いわけではなく、サンプル数が少ない中で大きな傾向を見るのは難しい。だが、コインに発行所や年代が刻まれているので、それをもとに細かい分析はしやすい。日本や中国の銭貨はわりと無個性で、「なんとか通宝」としか書かれていないようなものがほとんどなので、詳細な分析には適さない。でもわりと多くの信頼できるデータがあるので、それを処理して考えることはできる。
ま、両方を兼ね備えているのが西欧の古銭学なんですが。やれやれ。