ホメロス『イリアス(上)』(岩波文庫・赤102-1、1992年)

とりあえず上巻を読了。実は最初の目的は『ユリシーズ』を読むことだったのだが、それがパロディしている『オデュッセイア』を読もうと思ったのだが、それが『イリアス』の後日談的要素があることを知って、まずこれを読まねば、と。まあ欧米知識人の基本教養だとは思うので、邦訳とはいえ読んでいて損はないだろう判断も。
話自体は戦争英雄譚であるが、枠物語的構図が既に見られたり(第六歌pp.189-193)するのが面白い。
またもう一つ、戦陣に飛ぶ鳥を見て自軍の行く末の予兆とする考え方が語られる(第十二歌、pp.380-383)のだが、ここでは東(右手)に飛ぶものが吉兆、西(左手)に飛ぶものが凶兆とされている。実はイスラーム勃興前後のアラビア半島にも同様の習慣があったようなのだが、そこでは右手がイエメン、左手がシリアを指していて、イエメンの派生語から「吉兆の」、シリアの派生語から「凶兆の」という形容詞も作られる。多分、方角はその時代や場所によって変わるのだろうが、右が吉、左が凶、というのが古代世界の共通認識だったのかもしれない。ちなみにアラビア語では、イエメン(al-Yaman)は右手(yaman)に定冠詞がついた形をとっている。語源的なことは調べてみないとわからないが。