井上浩一『生き残った帝国ビザンティン』(講談社学術文庫1866、2008)

原本の出版は1990年。ビザンツ帝国の全体を見通すような本をこれまで読んでいなかったが、手頃な本が出たのでこれを機に(僕の知っているビザンツ通史はどれもこれも辞典並みの大きさのものしかなかったので)。
基本的には各時代を代表する皇帝の伝記的記述を中心として読みやすい。またその中でもその時代ごとの論点をうまくはめ込んでいるという印象。社会の変動についての記述が、一応一つの筋として通っていると感じた。
僕にとって最もなじみの深いビザンツ皇帝は実はサーサーン朝からシリア、エジプトを奪回し、メソポタミアまで攻め寄せたが、その後アラブ・ムスリムの軍に敗れて再びシリア・エジプトを失ったヘラクレイオスだ。これまでサーサーン朝の敵、そしてアラブ・ムスリム軍にとっての敵としか認識していなかったが、ヘラクレイオス側から考えると彼の人生は結構悲しいとわかったのが新鮮だった。